Ri.Night Ⅳ
「かな……っ!」
彼方に気を取られた隙にもう一人の男の拳が壱の顔目掛けて振り上げられる。
「………ッ!」
けれど、間一髪のところで免れた。
何故なら壱が咄嗟に掴んでいる服を離し、思いっきり突き飛ばしたから。
「……油断、出来ないね」
いつものにこやかな笑顔は何処へやら。
顔を上げた壱の表情はいつもの壱とは異なっていた。
とは言っても“笑顔”はそのままで。
違うのは壱の周りを纏う空気だけ。
いつもの穏やかな壱とは正反対とも言える黒々しい笑顔に男は凍りついた。
「あーあ。怒らせちゃったねぇ」
そう言って、首を大きく回しながら立ち上がったのは彼方。
その口元には愉しげな笑みが浮かべられている。
「彼方、さっさと片付けて凛音ちゃんの所に戻ろっか」
「そーだな。男の相手するよりりっちゃん構ってる方がよっぽど楽しいし?」
冷めた視線を送る壱と、おちゃらけたように声を弾ませる彼方。
両極端な二人はそう発するや否や同時に地を蹴った。
──と、その時。
「……っ!」
「なっ……!?」
突如二人を襲ったのは白い霧。
シューと聞き覚えのある音が廊下全体に響き渡る。
壱と彼方はその白い霧の正体が消火器だとすぐに気付いた。
けれど、すぐ目の前で噴射されているせいで前に進む事が出来ない。
「彼方……!」
「壱!!」
二人に追いついた陽と煌は、白い霧に包まれている壱と彼方を見て直ぐ様その中に飛び込んだ。
そして、二人の腕を掴んでそこから脱出させる。