Ri.Night Ⅳ
振り返った先には動き出した筈のタクシーが止まっていて、後部席の窓から中田が顔を覗かせていた。
「桐谷」
さっきより小さく。
けれど、確かに中田は十夜を呼んでいた。
真っ直ぐ十夜にだけ視線を注いでいる。
「待ってろ」
十夜はそう言うと、ポンッとあたしの頭に手を乗せて歩き出した。
少しずつ遠ざかっていく十夜の後ろ姿。
それをあたしだけではなく、皆も無言で見ていた。
タクシーに近付いた十夜が前屈みになり、中田と目線を合わせる。
二人が何かを話しているのは口元の動きで分かるけど、距離が離れすぎていて内容までは聞こえない。
一体何の話をしているのだろう?
そう思った時、十夜が身体を起こし、視線を落としたままこちらへと歩いてきた。
十夜の後方では再びタクシーが動き始める。
少しずつ遠ざかっていくタクシー。
十夜は未だ俯いたままで、何かを考えているように見えた。
その姿を見て不安が募る。
「十夜……」
中田に何か言われたのだろうか。
「──行くぞ」
手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いた時、十夜はようやく顔を上げ、あたしを見た。
顔を上げた十夜はいつもと変わらず無表情で。
それを見た煌達は何も言わずに歩き出した。
「十夜……」