Ri.Night Ⅳ
「ちょ………」
甘い痺れを堪能する暇もなく離れていく十夜の唇。
ほんの一瞬の出来事で何の抵抗も出来なかったあたしは、十夜に身体を預けたまま、金魚のように口をパクパク開けたり閉めたり。
当然、顔は今にも噴火しそうな程熱くて。
そんなあたしを見た十夜は余裕の笑みを落としてクシャっとあたしの頭を撫でた。
「お前は後から来い」
「え、ちょ……!」
急に離された身体は支えを無くし、ストンとその場に崩れ落ちる。
「その顔で来たら冷やかされんぞ」
「……っ、だ、誰のせいで……」
「さぁ?誰のせいだろうな」
まるでイタズラをした後のようににやりと笑う十夜は、とてもじゃないけどキスをした後とは思えない。
「ムカツ──」
「お前のせい」
「え?」
「喜ばせるお前が悪い」
「………っ」
まるで捨て台詞のようにそう言い放った十夜は最後にフッと口角を上げると、一度も振り返らずにリビングの中へと消えていった。
なに、今の……。
最後の最後にとんでもない爆弾を落としていった十夜にまたもやあたしは口を開けたり閉じたり。
「……っもう、ホントムカツク!」
たった今消えていったばかりの扉にそう言い放つと、手のひらで両頬を包み込み、隠すように顔を伏せた。
喜ばせるお前が悪いって、あたし喜ばせる事何も言ってないし。
っていうか喜ばせてんのは十夜じゃない。
憎まれ口を叩いているけれど、それは全て照れ隠し。
押したり引いたりの十夜に振り回され、流石の凛音ちゃんも完全にお手上げ状態。
「どんな顔して入っていけって言うのよ、馬鹿」
熱の籠ったその呟きは誰にも聞かれることなく玄関ホールに静かに響いた。