Ri.Night Ⅳ
「り、凛音ちゃん……?」
背後から聞こえた壱さんの控え目な呼び掛けにくるりと振り返ると、
「壱さん。壱さんも一発殴って」
「……へ?」
ズイッと近付き、壱さんの手を取った。
「ちょ、凛音ちゃん!?」
顔近くまで持ってくると壱さんがオロオロと慌て出し、手を引っ込めようとする。
「殴るって無理だよ!俺には凛音ちゃんは殴れない!」
「じゃあ彼方殴って!」
壱さんの手を離し、彼方に詰め寄る。
「え!俺!?俺にも無理!」
「陽!」
「いや、あの、」
もう!!
フルフルと勢い良く頭を振って拒否る二人に顔を顰める。
とその時。
「ほらよ」
ゴンッと良い音が響いた。
「いっ!!……ったぁー」
突如頭頂部を襲った激痛。
煌に殴られたらムカツクから絶対頼みたくなかったのに、煌の奴、勝手に殴りやがった。
でもまぁ、うん。
「気合入った!」
この痛さ、目が覚めるにはちょうど良い痛さだ。
「気合?」
「そう、気合!」
キョトンとする陽に大きく頷く。
そう、気合だ、気合。
気合が足りないから嫉妬に食われるんだ。
もっと前向きにならなきゃ。
十夜が選んでくれたのはあたし。
つまらない嫉妬ばかりしてちゃいけない。
弱い心は捨てなきゃ。
あたしは強くなりたいんだ。
喧嘩とかじゃなく、心を強くしたい。
何があっても揺らがない、そんな強い心を持ちたい。
今のあたしじゃ絶対無理。
少しずつでいい。
強く強く強く。
胸を張って十夜の隣に立てるように。
“鳳皇”の隣に立っても恥じないような、そんな強い女性になりたい。
「──凛音」
「……え?」
コンコンと音がして振り返れば、窓の向こうに居たのは十夜。