Ri.Night Ⅳ
遥香さんは葵さんの問い掛けに応えなかった。

ただ意味ありげに十夜を見つめるだけ。


「十夜──」

「凛音ちゃん」


小さく十夜の名を呟いた時、遥香さんに呼び掛けられ、目が合うなり儚げに微笑まれた。


「……ごめんね」

「え?」

「嫌な思いさせて、ごめんなさい」

「……っ」


それは何に対しての謝罪なのだろう。


「遥香……!」

「……葵、ごめん、後で話すから。だから家の中に入ってて貰える?」

「遥香……」

「十夜も、車で待ってて」

「……分かった」


静かに頷いた十夜は繋いでいた手を離すとポンッとあたしの頭に手を乗せ、踵を返した。


それを見た葵さんは渋りながらも玄関を開ける。


振り返る直前、不服そうな顔で睨まれた。



「……本当にごめんね。葵には何も言ってなくて……。そのせいで凛音ちゃんに嫌な思いさせちゃったね……」


パタンとドアが閉まるのを確認した遥香さんが申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。


その言葉にあたしは小さく首を振る事しか出来ない。



「──数日前にね、言われたの。“凛音を迎えに行く”って」


数日、前……?


「さっき、十夜と二人、遅れて駐車場に来たでしょう?あの時の二人を見て、あぁ、上手くいったんだなって思った」


そう言って、少し寂しそうに微笑む遥香さん。

ゆっくりと視線を落としながら続ける。


「付き合いが長いからね、分かるの。十夜の表情の違い。凛音ちゃんを見る目が優しかった。今まで見た事がないぐらい優しい瞳だった」


「遥香さん……」
< 291 / 476 >

この作品をシェア

pagetop