Ri.Night Ⅳ
あたしからそんな言葉を返されるとは思っていなかったのか、十夜の目が僅かに見開いた。
その表情にフッと笑みを零し、一歩前へと出る。
「り、凛音?」
「オイ……!」
戸惑いを含んだ陽と煌の呼び掛けに、騒いでいた皆が一斉に何事かと見上げてきた。
中にはあたし達の会話を聞いていた人もいたのだろう。
戸惑いと困惑に揺れる視線が真っ直ぐ突き刺さってくる。
何百人もの人間が集まるこの空間で、今、動いているのはあたしだけ。
集まる視線を一身に受けながら、一歩、二歩とゆっくり階段を下りていく。
静寂が広がる中、コツン、コツンとリズムを刻む靴音。
それはまるでこの場の支配者のように感じて。
自然と表情が固くなっていくのが分かった。
目の前に広がる“鳳皇”という名の広大な海。
それを真っ直ぐ見据えながら静かに口を開く。
「あたしは十夜の望む“凰妃”にはなれない」
階段を下りながらそう口にしたあたしの声色は、先程とは程遠い低くて力強い声。
その声色に驚いているのか。
それとも今発したばかりの台詞に驚いているのか。
どちらかは分からないけど、視界に映る皆の表情は驚愕に満ちていた。
その表情を捉えながら更に歩みを進める。