Ri.Night Ⅳ
75.逃避
────…
翌朝目が覚めると、まず先に感じたのは人の温もり。
背中全体から伝わる温もりと腰に回されている腕。
それが十夜のものだという事は考えなくても直ぐに分かった。
これまで幾度となく同じ経験をしているせいか、今はもう全く驚かない。
十夜は抱き締めながら寝るのが好きらしく、その日によって抱き締め方が違う。
今日みたいに後ろからの時もあれば、向かい合わせで抱き締める時もある。
今日の気分は後ろかららしい。
身体を動かそうと試みたけど、腰に回された腕にガッチリと固定されていて全く動けない。唯一動かせるのは頭だけ。
「……ん」
十夜を起こさない程度に少し動くと、こめかみに触れる感触が寝る前とは異なる事に気が付いた。
どうやら腕枕をされているらしい。
十夜は何故か腕枕をするのが好きで、『重たいからいいよ』と何度も言っているのに『重たくねぇ』と言って半強制的に腕枕をする。
あたしはどちらかと言えば腕枕より十夜の胸元に包まれて眠る方が好きなんだけど。
そう、こんな風に……。
そっと身体を半回転させて、起こさないように十夜の胸元へ擦り寄っていく。
そして、目の前にある温もりへと顔を埋めた。
……ホラ、こんなにも身体全体で十夜を感じられる。
目を閉じて耳を澄ませば、耳に届くのはトクントクンと一定のリズムを刻む十夜の心音。
頭上からは小さな呼吸音が聞こえていて、二つの音をよりリアルに感じる事が出来る。
「……十夜」
こうしていると、昨日の出来事がまるで嘘のように感じる。