Ri.Night Ⅳ
「……凛音?」
「……っ、ごめん、起こしちゃった?」
どうやら強く抱き締め過ぎたらしい。
慌てて十夜の胸元から離れると、「離れんな」といつもより少しゆったりした口調で言われ、腰をグイッと引き寄せられた。
「……っ、」
さっきよりも密着した身体にあたしの身体が熱を持つ。
それに連鎖するように速くなる鼓動。
十夜に聞こえてるんじゃないのかと少し焦ったけど、今は離れたくないという気持ちの方が勝ったから動かなかった。
……ずっと、ずっとこうしていたい。
十夜の腕の中にいたい。
抱き締められていたい。
いつもより強いその願望に、心が見えない不安に支配されているのだと感じた。
「……凛音?どうした?」
まだ少し眠たそうな声が頭上から落ちてきて、抱き締めている手の力が緩む。
知らない内にまた強く抱き締めていたらしい。
「十夜……」
遥香さんの事、聞いてみる?
そんな声が脳内で響いた。
「あのね……」
そう発したものの、その先の言葉がなかなか出てこない。
「……凛音?」
黙り込むあたしを不審に思ったのか、十夜が腰に回していた腕の力を緩め、身体を少し離してあたしの顔を覗き込みにきた。
けれど、あたしはそれを拒否するように十夜の胸元へ擦り寄っていく。
……やっぱり駄目だ。
まだ十夜に聞く勇気がない。
十夜と目を合わせる勇気もない。
だから……。
「ごめん、何でもない。あたし先起きるね。皆ももうすぐ来るだろうし、ご飯作らなきゃ。十夜はもう少し寝てていいよ」
息つく暇もなくそう言葉を並べると、素早く十夜から離れた。
「オイ、凛音、」
明らかに様子がおかしいあたしに十夜が気付かない訳がなく、直ぐ様手を引かれる。
「……ごめん、トイレ行きたいから離して」
そう言うと、十夜はすんなりと手を離してくれた。
「……トイレ行ったら直ぐに戻ってこい」
部屋を出る間際そう言われたけど、あたしは振り返りもせず無言で部屋を後にした。