君がいる毎日
pm 3:00
赤ちゃんというものは、寝ていると思っても実は起きているものらしい。

「抱っこで寝かせていて、やれやれ、やっと寝たと思ってベッドにおろすでしょう? そしたらね、その瞬間ぎゃーって泣くの」

赤ちゃんの背中にはスイッチがあるのよ、と真剣な顔で加奈さんは言う。

「本当ですか?」

「うそに決まってるじゃない」

横で、唯月がぷっと吹き出した。

「ですよね」

加奈さんはともかく、唯月にまで笑われているのが悔しくて、私は鼻の頭にしわを寄せた。

唯月にずっと抱っこされていた龍之介くんはすっかりご機嫌になり、ベビーベッドの中で手足をばたつかせている。

「またくるね」と声をかけると、龍之介くんは黒目がちの大きな目で私たちを見上げてくれた。

加奈さんにさよならをして、近くのパーキングに停めていた唯月の車に乗り込む。
車内はあいかわらず、もわっと暑い。

「赤ちゃんは寝たふりが上手なんだね」

と言いながら、今朝のことを思い出し、運転席に座る唯月の横顔に確認する。

「今朝のことだけど。ゆづは寝てたよね?」

「寝てたよ。寝てた」

窓を全開にしながら、唯月は答える。

「本当に寝てた」

窓から気持ちのいい風が入ってきて、唯月の髪を揺らす。

「だから、なにがあったかなんて、俺は知らないよ」

車が赤信号で止まる。
唯月はぐいっと身を乗り出して、私に触れるだけのキスをした。




< 11 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop