猫柳の咲く季節に


「…ごめん。話、なくなった」


無理に笑顔を作って、そう言う。


これ以上拓海といると、溜めていた涙が溢れ出てしまう。


だから、頑張って笑うんだ。


拓海にそれを気づかれないように。


「じゃあ、もう行くね。来てくれてありがとう」


「うん、気をつけて」


気をつけて、なんて言わないで。


もしかしたら、私を心配してくれているのかもってうぬぼれてしまうから。


永瀬さんが好きなくせにそんなこと平気でするなんて、ずるいよ。


階段を駆け下りながら、涙を拭く。


また、言えなかった。


フられるのが怖くて逃げたんだ。


あのときのように、弱虫のまま。


いつか、この思いを伝えたいのに。

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