猫柳の咲く季節に
話し終わったとき、千鶴さんはうつむいていた。
どうしたんだろう…
顔を覗きこめば、ただ一点をじーっと見つめる姿があった。
なにか、辛いことでも思い出させてしまったのかと、不安になる。
だけど、千鶴さんは笑顔を見せて、言ったんだ。
「…頑張ったね」
その言葉に思わず耳を疑う。
いつもなら、敬語で話してくるのに、今のは違った。
それに、どこか千鶴さんらしくないような気もする。
第一、ありふれた言葉だからかもしれないけど、すごく懐かしく感じるんだ。
それがとても不思議でたまらなくて、もうその日、千鶴さんと話したことなんて、あまり覚えてはいなかった。