強引社長の不器用な溺愛
「堂上を連れて行きますよ。俺よりは冷静で、人当たりもいい」


妥協案を出してみるが、敬三さんは首を振る。


「堂上には昨日うちの会社で会った。一足先に相談したが、やんごとなき事情ゆえ、今回だけは勘弁してほしいとのことだ」


ああ、なるほど。
堂上はきっと、独身最後のクリスマスに出張なんか入れようものなら、リカちゃんに殺されると思って逃げたんだろう。

それに関しちゃ、仕方ない。
逃げたな、テメー!という文句は本人に言ってやるとするが、家族の用事を優先したいっつうのは、堂上も敬三さんも一緒だ。
ひとり許して、もうひとりを許さんというわけにはいかない。

敬三さんが篠井を見つめて懇願する。


「絹、悪いが、おまえに任せたいんだ。この男が誰とでもうまくやるのを俺も知っている。だけど、変な方向から邪魔が入らないように、おまえが控えて見張っていてくれ。おまえは、そこそこ賢いし、東弥のことを一番理解している」


「そこそこっていうのが引っかかりますけど」


篠井が眉をひそめたまま、ぼそぼそと答える。


「そういうことでしたら……私が同行します」


まさかの回答!
篠井が引き受けるとは!

俺の方が驚いて、なんだか挙動不審になりそうだ。


「ありがとう、絹。東弥もよろしく頼む」


敬三さんが何度目かではあるが頭を下げ、俺は頷いた。

クリスマスに篠井と泊りがけ出張……。
待て待て、変な意味にとるな。仕事だ、仕事。

何も起こらんぞ。絶対に!
俺はラテアートを豪快にかき混ぜ、一気に飲み干した。


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