強引社長の不器用な溺愛



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観光地としても有名なその駅に着いたのは、午前10時、雪の降る中だった。
そこからタクシーで1時間ほど行くと、目的である大沢キノコ農園株式会社に到着した。

大きな工場が2棟並び、隣接した7階建のビルがオフィスのようだ。
周囲は雪を50センチほどかぶった田畑で、その真ん中ににょきっと立つビルは、ちょっとした非現実感。

敬三さんと篠井とともに通されたのは、オフィス最上階の応接室だ。
社長室と隣接しているのが面白い。

まずは大沢社長をはじめとした重役たち、広報担当者と挨拶をする。
居並んだ面子の肩書を見て、この仕事が社運をかけた一大プロジェクトだということが伝わってくる。

その場は挨拶と名刺交換で終わり、敬三さんは頭を下げ下げ、場を辞して行った。

ここからは俺と篠井の仕事だ。

広報担当者の行方(なめかた)さんに連れられ、近所にある会社運営のレストランで昼食にした。
キノコ尽くしの内容かと思いきや、メニューは意外と普通。
一応、俺はキノコハンバーグセット、篠井はキノコグラタンにしていたけど。
必要だろ、こういう気遣い。

行方さんは俺よりいくつか上と思しき細身の男性だ。
この人は、社長と共に安野産業派でいいんだよな。
俺たちを邪魔するのではという敬三さんの懸念は副社長の方だっけか。

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