強引社長の不器用な溺愛
なんとなーく、気に入らないことがあるとすれば、篠井がハイスペック清塚さんをちらちら見ていることだ。

へー、おまえ、こういう髪の毛サラサラ草食理系イケメンがお好み?
ふーん、意外。

ま、いーんじゃないの?
未来あるイケメンを旦那候補に選ぶっていうのは、かなり安定志向だ。

一度は、こいつが既婚者との恋愛に溺れていたらなんて心配をしたこともある。
真っ当な相手ならいいじゃないか。お兄さんは応援するぞ。

ハイスペックくん……駄目だ、本気でこの名前で呼んじゃいそうだから、一回忘れよう。
清塚さんは見る限り、独身っぽく見える。
家庭や妻子のある所帯じみた雰囲気がまるでない。

指輪もしていない。待てよ、研究職だからはずしてるってこともあるか。
よし、その辺は俺の社交術でリサーチしてやろう。

万が一、既婚者だったらすぐに教えてやるからな。
その時は、お兄さんの胸で泣きたまえ、絹よ。


打ち合わせが終わったのは16時。
18時半開催のパーティーにはまだ時間があるため、ホテルのチェックインを先に済ませることにする。

篠井が手配してくれたのは、新幹線を降りた観光地の駅ではない。
大沢キノコ農園の所在地からタクシーで20分ほどの駅前のホテルだ。

のどかな駅前だ。この駅も本数は少ないが新幹線が停まるらしい。
帰りは急ぐ旅でもないし、この駅から特急券を手配してあるそうだ。


「段取りイイっすね、秘書さん」


ホテルに向かうタクシーで言ってみる。
口を開いて気づいた。今日初めて、篠井と二人きりの状況だ。

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