強引社長の不器用な溺愛
間が持たないというわけじゃない。
だけど、なんとなく落ち着かない。


「当たり前です。私を誰だと思ってるんですか?」


篠井が高飛車に答える。


「社長は、パーティーで愛想を振りまくことだけ考えてくださればいいです。後は、私がやります」


「頼りになる~」


俺が気のない返事で茶化すと、篠井はおおいに不満そうに鼻を鳴らした。

ホテルは築50年以上は経っていそうな古めかしい建物だった。
昔、兄貴のピアノの発表会で入った古いホールを思い出す。地元では結婚式や会食にも使われるそうだ。

篠井がフロントで手続きを終え、戻ってくる。
俺の手にくすんだプラスチックのバー付きの鍵を握らせる。篠井の持っている鍵とはお隣のナンバーだ。

あ、やっぱりそうだよな。
同じ部屋なわけないよな。敬三さんが使う予定だった部屋に篠井が入るだけだもんな。

一瞬でも邪な考えが浮かんだ自分を殴ってやりたい。

馬鹿か、俺は。
出張で同じ部屋の上司と部下って!どこの不倫エロの構図だよ!
いや、俺と篠井は独身だから不倫は当てはまらないけれども!


「では、18時にフロントで」


部屋の前で篠井は言い、ドアの向こうへ消えて行った。

なんか、俺だけがバタバタしている気がする……。
ま、いっか。とりあえず休憩時間だ。シャワーでも浴びて、ベッドに転がってみよう。



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