強引社長の不器用な溺愛





18時2分過ぎにフロントに降りていくと、篠井はぷんぷん怒っていた。


「遅いです!もうタクシーが来てるんですよ」


うん、いつもの篠井だ。
なんだろう、今日はあの貼り付けたようなニコニコ顔を見ていない気がする。
ようやく篠井も通常運転に戻す気になってくれたのかな。

篠井は同じベージュのスーツだけど、シャツをジョーゼットだかシフォンだかのプリーツブラウスに替え、髪をアップスタイルにしている。
首元には小さな石のついたネックレス。
一応パーティーだからか、ビジネススタイルとは分けているようだ。


「篠井、さっきと同じスーツなのに、可愛いなぁ」


褒めてみると、篠井の顔がぼっと赤くなる。
てっきり『当然です』みたいな返事がくると思ったのに。そんな顔されたら、調子が狂う。


「変ではないですか?」


しおらしく聞いてくるのも不思議だ。なんだ、篠井。通常運転でもないぞ。

もしかして、こいつ、非日常に弱いタイプ?
俺とふたり出張でパーティーっつう今までにない出来事に戸惑ってる?


「変じゃない。今日みたいな会ならちょうどだろ」


「社長はネクタイ曲がってますけどね」


篠井が俺のネクタイに手を伸ばしてくる。俺たちの身長差は20センチ程度。
ネクタイをいじるとき、背伸びする篠井は少しイイ。可愛い奥さんって感じ。

あー、なんなんだ。
俺も弱いのか?非日常に!
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