強引社長の不器用な溺愛
俺は堂々と副社長に近づくと頭を下げた。


「ご挨拶が遅れました。このたびサプリメントプロジェクトの広告デザインを担当します八束と申します。」


化粧の濃い奥様は怪訝そうに俺を一瞥する。


「あら、その件はちょっとねぇ」


そう言って鼻で笑うときたもんだ。
このオバアチャマ、腹たつなー。


「せっかくなので、昼間お話できなかった分もお時間をいただけますか?」


俺はにっこり笑って、副社長の顔を覗き込む。横の常務夫妻が嫌そうな顔をする。


「悪いけれど……」


断りの言葉をさえぎって、ひときわ大きい声で後を続ける。


「副社長、そちらのジュエリーは今シーズンのギンザ宝飾の新作ではないですか?あの広告を手掛けたのもウチなんですよ」


煙たがられているのを承知で、どんどん副社長に話を振りまくる俺。

話しながら気づく。副社長は人を探している。

どうやら探し人は、社長とサプリメントの開発責任者である清塚さんだ。
ふたりをクリエイターズフォレスト側に紹介し、このパーティー中に仲を取り持ってしまおうってところかな。

でも、俺はすでにふたりがどこにいるか確認済。

ふたりとお孫さんを確保して、エントランスホールのソファで会話しているのは篠井だ。

事前に篠井が調べたところ、大沢社長と清塚さんは篠井と同じ大学の出身。
学閥ってわけじゃないけれど、カシコイ大学のOBOGは社会で会うと絆を感じるものだ。

今回の俺と篠井の分担がこれだった。
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