強引社長の不器用な溺愛
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今夜の宿泊先を目指して、ちらちらと雪の落ちる中、タクシーは発車した。
21時過ぎ、田舎の国道は灯りが少ない。
というか、商業施設はもちろん人家も少ないのだ。
灯りは遠く山沿いにぽつりぽつり。たまにあるコンビニが煌々と眩しい。
あとは稲刈りもとうに済み、数十センチ雪の積もる田んぼが続くばかり。
車の通りも少ないので、15分とかからず到着してしまいそうだ。
「社長、お腹空いていませんか?」
篠井が聞いてくる。
俺はなんとなく、その顔を直視できず、前を向いたまま答える。
「あー、まあまあ。なんだかんだであんまり食えなかったもんな。ホテルの裏にコンビニがあっただろう。寄って行けばいいよ」
「良ければなんですが、私、少し食べるものを用意してあります。ご一緒にどうですか?」
篠井がさらりと言う。ご一緒にっていうのは、ホテルの部屋で?
いいのか?
いや、もう気にするな。いいだろ、俺と篠井なんだから。普通の仕事仲間の距離ならあることだろ。
「じゃー、もらおうかな。俺も一応、酒は持ってきてんだよな。結構美味しいヤツ」
「私もそれ飲みたいです。着いたら色々持って社長の部屋に行きますので」
篠井の感情の起伏が薄いので、俺は逆に安心した。
篠井は妙に意識はしていない。