強引社長の不器用な溺愛
ホテルに到着し、部屋で上着を脱いだりしているうち、あっという間に篠井はやってきた。

ドアを開けると紙袋やら箱やらビニールやらを下げた篠井。
服はジャケットを脱いだだけで、ブラウスとタイトスカートだ。ネックレスははずしたようだが、髪はアップのまま。

荷物が重いのか眉間に皺がよっている。


「大荷物ですね。絹さん」


「ええ、受け取ってくれてもいいんですよ。気の利かない東弥さん」


普段しない名前呼びも、ふざけてならできるんだよな。

篠井からビニールを受け取る。
中身は瓶に入ったビールがいくつか。見たことない銘柄だ。


「地ビール?」


「はい、この近くのブリュワリーで作っているそうです。こっちは、近くのワイナリーのワイン。少し行くと雪の中ですけどブドウ畑が見えるんですよ」


篠井はさらに紙袋からバゲットやフィリング入りのパンを出す。


「近所のパン屋さんなんですけど、ネットで評判なんで行ってみました。お酒に合いそうなのを見繕ってもらいました」


「まさか、この箱は?」


俺が丸テーブルに置かれた紙箱を開けると、中にはカシスのムースがふたつ。
MerryXmasの小さな紙が刺さっている。


「ホールケーキは食べきれないので」


「……篠井さ、まさかパーティーに行く前の時間、これらの調達をしてたのか?」


俺が問うと、篠井はきょとんと答える。


「え?そうですけど?」
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