強引社長の不器用な溺愛
「お疲れ様です」


「今日は及第点ってことでいいだろ」


「敬三さんも文句ナシの出来だと思います」


ワインは心地よく、つまみのパンも美味い。
ロゼはあっという間になくなり、地ビールも地元ワインも封を切る。

ちょっと前の気まずさや険悪さはない。
ひとつのことふたりで乗り越えると、俺たちの空気はいつものものに戻る。

なんだ、最初からこれでよかったんだ。
下手に足掻かずとも、俺たちは元通りじゃないか。


「ちなみに篠井は今日、誰かと約束があったのか?」


ノリで聞いてみると篠井が口を尖らせ、ぼそっと答える。


「……沙都子さんと清子ちゃんと三人でクリスマスパーティーの予定でした」


「おまえさ、やっぱ今現在彼氏ナシだろ」


俺がニヤニヤ突っ込むと、篠井が頬を赤くして、勢いよく反論する。


「今だけです!今、ちょうど特定の人がいないだけです!」


篠井の回答が妙に嬉しい。

こいつ、とうとう本当のことを言った。
そうだと思ったんだよな。彼氏がいるのに、他の男とキスなんかするヤツじゃない。

でも、今はフリーなら、清塚さんとの恋愛は充分可能性有りってところかもな。

イケメンだし、有望株だし。新幹線で一時間少々なら遠距離ってほどの距離でもない。

篠井は……清塚さんともキスできるのかな。

俺にしたみたいに『気持ちいいならしてもいい』って、迫るのかな。
あの純朴そうな理系男子はイチコロだろ。そんな誘い。
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