強引社長の不器用な溺愛
こいつが本当に世慣れた遊びを得意とする女だとして、俺とのキスが単なるお遊びだったとして。

もう、する気はないのだろうか。

俺ともう一回、キスを試してみる気はないのだろうか。


「社長?」


呼ばれてハッと気づく。
篠井がワイングラスを片手に俺の顔を覗き込んでいる。


「わり。疲れてるみたいだ。一瞬寝てた」


俺は強がって笑ってみせる。

疲れてるのは本当だけど、酒の力でタガが変な方向で外れちゃいけない。

篠井と?
もう一度キス?

やめとけ。
遊びにしたって、俺たちの関係なら三度目はない方がいい。

今さっき確認したばかりじゃないか。
自分たちのあるべき姿は、ともに困難を乗り越えていく相棒としてのスタイルだ。男女の関係じゃない。


「社長が眠いんでしたら、もうケーキ食べちゃいましょう」


「食べるの保留っていう案はナシなのな」


「ナシです。ケーキは一番楽しみにしていたので」


篠井がいそいそとケーキの箱を空け、紙皿に移す。
手についたムースをぺろりと舐めるその仕草に、無性に高ぶった。

まずいな。
ムラッときちゃいけない。自制しろ、大人だろ。

でも、同時に思う。

篠井は俺のことどう思ってるんだ?
過去二度のキス、篠井は嫌がってなんかいない。積極的だった。

一度考えた可能性が脳裏を過る。

篠井が俺と、男女の関係を持つこともやぶさかではないと思っていたら?
篠井にとっては、そこまで考えてのキスだったとしたら?

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