強引社長の不器用な溺愛
「この前のキスは、私からうっかりしてしまいましたので、おあいこです。反省したんです、あの後。あなたとすべきじゃなかったって」


いちいち、言葉が胸を突く。
やめろよ、そういう言い訳。
あの瞬間はあれで完結してる。おまえにその気がないなら、ほじくり返すのやめろ。


「上司で兄にも等しい人に仕掛ける遊びじゃありませんでしたよね。社長、どうか今後は今まで通りの八束社長と秘書の篠井に戻らせてください。変な空気にしてしまって、本当にすみません」


困ったように笑って頭を下げた篠井を見て、俺はとうとう立ち上がった。

なんだ、この失恋みたいな空気。

篠井はとっくにその気なんかなくなっていた。
むしろ、今日の新しい出会いが心を満たしていたのかもしれない。
それなのに、俺が妙なちょっかいを出してしまった。

情けないし、恥ずかしいし、それと同時に篠井の顔を見ていられないほどに悔しかった。

なんだ、男慣れした女に軽くつまみ食いされた程度で怒るなよ、俺。

でも、どこかで考えてしまう。

おまえの顔を金輪際見ないで済むならどれほどいいか。
……そんな淀んだ痛みを押し込むようにシャワールームに足を進める。
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