強引社長の不器用な溺愛
帰りの新幹線こそ別々にしたものの、社長は金曜も今日の掃除もまったく普通の態度に戻っていた。
私が望んだから、そうしてくれているんだと思う。

社長に申し訳ない。

とはいえ、これ以上の謝り方がわからない。

仮に私が自分が処女だとか、キスに興味があって、社長を襲ってしまいましただとか、正直に告白して謝罪したところで、社長が嫌な想いをしたことに変わりはない。

それなら、社長のためにも、私は今度こそ“秘書・篠井絹”に戻ることが先決なのじゃなかろうか。
二度と変なことは仕掛けず、真面目な秘書に戻るべきだ。



『キスより先も、アリか?』


不意に、社長の低いささやき声がよみがえり、我知らず背筋が震えた。
鼓動が速くなる。

恐怖からじゃない。
あの声を思い出すたび、間近に迫った社長の色っぽい表情を思い出すたび、胸がどうしようもなく高鳴る。
私はこんな自分に戸惑い続けている。

そう、社長を拒絶しておきながら、私はイブの夜を忘れられないでいるのだ。

ベッドにお姫様抱っこで運ばれて、押し倒される。
キスと、それより先を望まれる。

自分でもバカだと思う。

だけどこのシチュエーションは、恥ずかしくも頭でっかちな私にとって、萌え死んでしまいそうなほどドキドキな体験だった。

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