強引社長の不器用な溺愛
何も考えず、私への仕返しだけで、あんなことをする人じゃないとは思っていた。

だけど、社長は本当に幸弥さんを想って行動してきたんだ。
自分の進路まで変えて。

今、八束デザインを経営してるっていうことは、進路は変えられても、経営者としての魂は消せなかったってことじゃないのかな。

社長が少なくなったグラスを手にし、中の氷を回す。からんという音が響く。


「俺の名前、東弥だろ?東って字はさ、正統な後継者って意味があるんだよ。うちの母親は、親父の愛人が先に男の子を産んだって知ってて、俺にこの名前をつけた。重くね?すげーキツイだろ?」


新年会のお母様の姿が浮かぶ。『東弥の将来を』そう言っていたお母さんは、たぶんまだ幸弥さんが“着物のさこた”を継ぐことを面白く思っていない。それは私にだってわかる。


「兄貴はさ、憎まれてると知りながら、俺の母親に本当に尽くしてくれるんだ。中学生の頃から『おかあさん』って呼んで、母親の気に入るように勉強も家事もなんでもするんだ。母親の立場的に、どんなに兄貴がいいヤツでも認められる心境にはならないだろ。そうすると、みんな不幸で可哀想なんだ」


社長の言葉が痛々しかった。
たぶん、その『不幸で可哀想』に誰より胸を痛めてきたのが社長なのだろう。


「もう、思春期の頃は親父を恨んだわ。てめー、中途半端なことしやがってーって。まあ、あの人も環境的に好きな相手と結ばれなかったっつう同情の点はあるけどな」
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