強引社長の不器用な溺愛
社長の家庭の事情の全容。
それは、幸弥さんの言葉と社長の言葉でだいぶ印象が違った。

たぶん、社長の方がすでに達観している。
考え尽くした後だから、こんなに穏やかに語れる。

お兄さんとお母さんの確執。
お父さんへの憤り。
その中で、必死に輪を保とうと手を広げてきた八束東弥。

小さな少年にどれほど大変なことだっただろうか。

考えるだけで、胸がきゅうっと締め付けられた。


「兄貴は人が良いから、俺が身を引いただの何だの、べた褒めしてただろ?でも俺はさ、才能も資質も器量もあるあの人が、環境的に恵まれないのが不満だっただけ。口さがない一族の馬鹿どもを見返してやってほしいんだよ。母親だって、本当はわかってんだ。兄貴が継ぐのが一番だって」


そこまで言って、社長が私に向き直った。
スツールの上、右ひざをこっちに向け、半身になって。


「篠井をあの場に連れてったのは、俺の仕返しだから謝んねーぞ。でも、嘘つかされて、うちのゴタゴタに巻き込まれて気分良くねぇよな。そこは悪かった」


私はぶんぶんと首を左右に振った。なんだか、泣きたいくらい申し訳ない気持ちだった。


「違うんです。私が元はと言えば悪くて。社長に仕返しされたのは、当然のことですし。おうちの事情で、そこまで社長が考えて起こした行動だって気付けなくて……勝手に怒って感じ悪くて……すみませんでした」
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