強引社長の不器用な溺愛
もう一杯ずつ、お酒を飲んで、私たちはバーを出る。
私は駅へ、社長は自宅マンションへ向かう。
ほぼ同じルートなので、並んで歩く。

ふわふわと不思議な足取りだった。
おかしいな。酔うほど飲んでない。
体調だって、完全に戻っているわけでもない。

なんだろう、このワクワクした感じ。
ああ、そうか。一応だけど、社長と仲直りできたからだ。

私たち、これでもう元どおりですね。
社長と秘書で、相棒で喧嘩仲間。

これで、元に戻れますね。


「社長」


「なんだ?」


「幸弥さんはお母様には自分が話すと言ってました。でも、少し待ってもらうのはどうでしょう。お母様が後継者について納得してくれるまで。私は婚約者ごっこくらいなら、いつでも付き合えますからね」


社長が歩きながら私を見下ろす。少し驚いた顔をしていた。


「いいのかよ」


「乗りかかった船……えーと、乗せられたんですけど、まあ大丈夫です。社長補佐も仕事ですから」


言いながら、歩く私。
ふと、社長が足を止めている。
ん?何事?
数歩先から踵を返し、社長に歩み寄る。


「どうしたんですか?」


社長は考えるような難しい顔をしている。
なんだろう。何かまた、困ったことでも思い出したのかな。
< 168 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop