強引社長の不器用な溺愛
*
意識が飛んだのは一瞬だったけれど、次に俺が身体を起こした時、篠井の親父さんの姿はなかった。
篠井の怒声が遠くで聞こえる。どうやら篠井は親父さんを社外に追い出したようだ。
フロアは応接スペース付近がしっちゃかめっちゃか。
母はどこかのタイミングでぷいっと帰ってしまったんだけど、土屋に氷嚢をゴリゴリ押し当てられている俺は、構いたてられられなかった。
倒れたり、ひっくり返ったものを直し、壊れたカップなんかを片付ける社員たち。
いやあ、すまん。
完全にうちのお家騒動に全員巻き込んだよな。
すると、一番巻き込まれたかたちの篠井が、フロアに飛び込んでくるなり俺の元へすっ飛んできた。
「社長、大丈夫ですか?本当にすみませんでした!」
篠井、半泣き。
おいおい、泣くなよ。おまえのせいじゃないだろ。
どうにかなぐさめたくて、俺の目の前にある篠井の頬にかかる髪をさらっと梳く。
まあ、衆人環視の中なんだけどな。
土屋が「きゃあ!」と色めきたち、植木あたりはちょっとショックな顔で見ている。
沙都子さんは堪えきれずニヤニヤしてるし、他の野郎どもはすでに「おめでとうございます!」なんて口々に言いたてる。
いや、めでたくないんだよ。実質まだ片想いだからさ。
「さっきのは、色々事情があって方便です!」
篠井が周囲に真赤な顔で説明するけれど、誰も聞いちゃいない。