強引社長の不器用な溺愛



堂上さんが手配してくれたのは、近所の吉祥寺第二ホテル。
私と社長は父に会いに、そこを目指して歩いている。
混み合う帰宅時間帯の路上を進む足取りは重い。少なくとも私は。

もう、今日はどうしてこんなことになっちゃったのか。
本当は、社長とごはんに行く予定だったのに。

いきなりお母様が乗り込んできて、うちの父まで現れて、挙句父が社長をぶん殴っちゃって。
わけがわからない。
結構、涙目なんだけど、私。

一番、わからないのは、社長の言葉だ。

父にあそこまで言う必要はなかったのに。
私と結婚したいだなんて無茶な言い訳をして。

結局こうして謝りに行くわけでしょ?
絶対、父は『絹を弄んだのか!!』なんて再び怒り出すに決まってる。

どうしよう。
どうやって、収拾つけよう。

でも、さっきの社長の言葉、実はちょっとだけ嬉しかった。
あんな風にプロポーズされて、それがお芝居でもキュンとくるなんて。私、やっぱり経験値の低いバカなんだな。悪い男に騙されるタイプの。

それに、あんなこと言ったから、社長は殴られちゃって。ああ、大変なことになった。

父に対する怒り、自分の立ち位置の微妙さ、社長への不可解な気持ち。
頭がごちゃごちゃだ。
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