強引社長の不器用な溺愛
「社長、痛くないですか?この後、病院に行きましょう」


横を歩く社長に言うけれど、彼は首を振る。腫れた頬にはシップが一枚くっついているだけだ。


「たいしたことない。歯も骨も折れてないし。つうかさ、篠井の親父さん渾身のパンチだろ?受け止めなかったら、損だ」


「その論理、わかんないです」


「娘が変な男にたぶらかされたって思って、普段、虫も殺さぬ親父さんが、本気で殴りにきたんだ。いい親父さんじゃん。娘をもらう身としては甘んじて食らうもんだろ」


だからー、いつまでもそのノリでいたらまずいでしょ?父に事情説明しに行くんでしょ?


「篠井、俺、本当のことを全部言うから、まあ聞いててくれよ」


社長がにっと笑って言い切るので、私は渋々頷くのだった。痛そうな頬のせいで笑顔がアシンメトリーだよ、社長。


シングルルームの一室、父は背を丸めてベッドにかけていた。
私と社長が、堂上さんとバトンタッチで部屋に入ると、父が顔を上げた。
社長の姿を見て、その顔がにわかに険しくなる。


「お父さん、社長の話を聞いて!」


牽制のために、私は鋭く言う。父は殴りかかってはこないものの、ベッドに座りひざで拳を握り、私たちに睨みをきかせている。
社長が一歩進み出た。


「お父さん、このたびは我が家の事情に巻き込んでしまってすみませんでした」


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