強引社長の不器用な溺愛
「お父さん、私にも時間をください」


私は社長の横に立つと、身体を最敬礼に折り父に頭を下げた。


「東弥さんの気持ちについて、真剣に考える時間をください」


お父さんは随分長いこと黙っていた。
私と社長が見守る中、窓の外を眺めて。何分も時間が経ったように思う。



「好きにしろ」


ようやく呟いたお父さんの声は小さくかすれていた。


「絹、そいつを振るなら戻って来い。付き合うようになったら、正式にうちまで挨拶に来い」


それは、父なりのOKだった。
むすっとしているけど、父に社長の気持ちが届いたのだ。


「ありがとう、お父さん」


「ありがとうございます!お父さん」


父は私たちのお礼も無視して、つんと外を向いてしまった。
まもなく弟からあと一時間ほどで到着するという連絡が入り、私たちは部屋を後にした。





ホテルを出ると時刻は19時半。
会社に戻ろうか、このまま帰ろうかという微妙な時間だ。

残っている社員にからかわれるのも何だし、今日は帰ってしまおうかな。
ほっぺた腫らして絶賛負傷中の社長はどうするのかな。
ファクトリー決済があるんだけど、堂上さんがやっておくって連絡がさっき入った。
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