強引社長の不器用な溺愛
ていうか……気まずい。

社長は何を思って、父にあんなことを言ったんだろう。

この前のキスが脳裏をよぎる。
もしかして、そこにある感情は、イミテーションじゃないのだろうか。……駄目だ、私の都合よく解釈するな。


「うちの母親には、明後日の土曜にでも説明に行くわ」


隣を歩く社長がふと言う。私の側からだと、湿布が邪魔して社長の表情がわかりづらい。


「説明ですか……」


「兄貴と俺のこと、きちんと母親に納得させてくる。あと……」


社長が言葉を切った。


「おまえとのことも話してくる」


それはどんなふうに話すんですか?
父に言ったみたいに言うんですか?
それじゃ誤魔化しになりませんか?


「篠井」


社長の真摯な声に、私は弾かれたように顔を向けた。
雑踏を避けて立ち止まった社長。くっきりとした二重の瞳が凛と私を見ていた。


「順序が違うよな」


「何が……」


「親父さんに、先に言っちゃってさ。おまえに言うべきことを」


それって。

期待し過ぎて胸がパンクしそう。死にそうな顔で、言葉を待ってしまう。
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