強引社長の不器用な溺愛
「篠井が好きだ」


たぶん、それは
ずっと聞きたかった言葉。


「……そんな冗談……」


「最初にしたキスから、こっちは完全にモード変わってんだよ。気づけ、バカ」


社長の言葉にどんどん鼓動が速まる。このままだったら、心臓の活動限界を超えて止まっちゃうかもしれない。


「今日だって、おまえとメシっつうことで、色々張り切ってたんだぞ。正直、今日の時点でここまで言うつもりはなかったけど」


頭をかいて、照れた様子の社長。
どうしよう、めちゃくちゃに嬉しい。

でも、なんて答えたらいい?
私も好きだって、言ってしまっていいの?

単に久しぶりのキスで舞い上がってしまっただけだったら……お互い困るよね、そんな結末。


「返事、今はいいや」


社長が言った。

え?そこはそうなんだ!
そりゃ、今すぐ答えが欲しいって言われても困る。でも……。


「時間はやるから、そのうち俺のものになれ、絹」


私は意味がわからないのと、混乱しているのと、ものすごく嬉しいのと……とにかくぐちゃぐちゃな気持ちで社長を見つめた。


「勝手、バカ、意味不明」


自然と悪態をついてしまうあたり、私たちの関係は現時点変化なしだ。私の胸が猛烈に苦しいだけで。


「雇用主に言う言葉か?」


社長は少し笑って、手を伸ばす。

そして、思いとどまったのか、私の頬の近くで指先を止めた。
くしゃっと握られた手が落ちていく。

私と社長は少しだけ見つめ合って、それから会社の前で別れた。




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