強引社長の不器用な溺愛
今日は一日外出だった社長とは電話で用件のみ話しただけだ。
何の変化もない社長の態度に昨日のことは夢だったのではなんて、変な想像までしてしまった。

私は全く、頭に入らない医療ドラマを止めた。
劇中のナースとドクターが恋仲になるかの心配をしてる場合じゃない。

缶チューハイをいっきに飲み干す。ライムの香りが頭をすっきりさせてくれる。

すると、メールが入っていることに気付いた。
送り主は清塚さんだ。


『急に明日東京に行く用事が出来てしまいました。新宿のアナスタシアホテルで、先輩の研究発表の手伝いです。夕方には空きますので、もしよろしければ、食事にでも行きませんか?』


明日は社長がご実家に説明に行くと言った日だ。

はっとした。
悩む理由はもうどこにもないのだ。

清塚さん……私に好意を持ってくれている彼に、嘘をつくことはできない。
社長に向かい合う前にやることはある。けじめをつけなければ。

私は思い切って、清塚さんの携帯にコールした。


『もしもし』


数コールで清塚さんが出た。
私はごくんと生唾を飲み込み口を開く。


「篠井です。今、よろしいでしょうか」


『ええ、大丈夫です。驚いちゃったな』


清塚さんの嬉しそうな声が耳に刺さる。
私はこの声の期待と真逆なことを言うんだから。
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