強引社長の不器用な溺愛
「明日は、すみません。ご一緒できません」


口にしながら、自分を奮い立たせる。誠実さに相対するのに誠実さを欠いたら駄目だ。


『急な誘いでしたもんね。お気になさらないでください。またべつな機会に……』


「こんなことを言ったら自意識過剰だと思われるかもしれませんが……」


前置きして言い切った。


「好きかもしれない人ができました。もう、他の男性と二人きりで食事には行けません」


これ、清塚さんが私のこと好きじゃなかったら、とんでもない茶番だよね。

しかし、茶番にはならないことは、次の長い間でわかった。
随分無言が続き、ようやく清塚さんが口を開く。


『僕の気持ちは、伝わってしまっていましたよね』


「なんとなく……ですが」


『参ったな、言い訳できそうにもない』


清塚さんは明らかに傷ついた声でひそやかに笑った。


『その男性に告白されたんですか?』


問われて、一瞬迷った。でも、答えるべきだと思った。


「はい。どこかで待っていたような自分に気づいてしまいました。これから、真剣にその人との関係を考えようと思っています」
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