強引社長の不器用な溺愛



*****


土曜日、朝8時半。
小田急線の梅が丘駅に降り立った私は、北沢警察署を右手に見ながら少々歩く。

狭いけれど両面通行な道をてくてく歩き続け、8時40分にそのお宅前に到着した。

これはこれは。結構な豪邸じゃないですか。

八束家の邸宅は、近代的な作りの大きな戸建てだった。
何LDKあるのか皆目見当もつかない。
周囲を囲む外壁と門の中、庭と大きなクスノキが見える。
堂上さんに住所を聞いた社長のご実家は、硲田家ほどではないにしろ、立派なお宅だった。

さすがにこの真ん前じゃまずいかと、一本横の路地に入り、壁にぺたっと貼りつき陣取った。門を見つめ、長期戦の構えに入る。


今日は、社長がご実家に来る日。
お母様に話をつけると言っていた。

私も一緒に行くと言ったけれど、社長は大丈夫とやんわり断ってきた。
だからこその待ち伏せですよ!

これだけ早ければ、社長がおうちに入るタイミングで『来ちゃった☆』ってやれるでしょ!?
手段が勘違い粘着女子みたいだけども。

私だって嘘をついた張本人だし、ご家族に謝るならご一緒したい。
それが……社長とのことを考えるけじめになるはず。

大丈夫、1月の屋外で長時間待てるように、背中と腰とお腹にカイロを貼ってきたし、タイツはおばあちゃんが履いてそうな分厚いヤツだ。

さらに足が冷えない靴下も履いてきたし、あと、毛糸のパンツも!
とにかく、絶対社長と一緒にご実家に行くんだ!

< 208 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop