強引社長の不器用な溺愛

次の瞬間、喫煙所を震わす大音声がスマホから飛び出してきた。


『清塚!!』


その声に、清塚さんが弾かれたように顔を上げる。


「大沢社長!!」


『おまえってやつは!……だから、遊び足りないって言うんだ!一回失恋したくらいで、判断を誤りおって!この馬鹿者!!』


スマホから降り注ぐ怒声はまぎれもなく大沢社長のもの。
篠井が小さく付け足す。


「すみません、最初から大沢社長と通話はつながっていました」


からくりはこうだ。

俺が清塚さんを探す間、篠井に頼んだのは担当の行方さんと連絡を取り合ってもらうことだった。
あらかじめ病院で待機してもらっていた行方さんが、社長に昨夜からの事態を説明する。
清塚さんの裏切りを信じられない社長に、状況を丸ごとわかってもらうため通話を切らずに、篠井が俺と清塚さんの対決に参戦。
もちろん、社長には合図するまで黙っていてもらった。


『清塚』


大沢社長がかすれた声で言う。昨夜、入院したばかりだ。調子がいいわけはない。それなのに、必死に説得しようとしてくれている。


『うちの家内はあの通りだ。自分と仲間が楽しくなる方法しか考えてない。俺はもう諦めてるけどな。それで、うちの船を沈没させるわけにはいかねぇんだ』


「はい、社長」


清塚さんは篠井からスマホを受け取り、涙ながらに画面に向かって頷いている。
< 225 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop