強引社長の不器用な溺愛
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ホテルの前で敬三さんに電話を終え、俺と篠井は歩きだした。
これから安野産業に戻って、ひとまず敬三さんと顔を合わせて事態を報告して解散になるだろう。
とんでもない休日になってしまった。
「清塚さんの意見で、副社長が黙りますかね」
篠井が心配そうにつぶやく。俺はうんとひとつ伸びをしてから答える。
「今回のことで、あの呑気な大沢社長も危機感を持っただろう。これからはいよいよ奥方の封じ込め手段を考えるんじゃないか?ともかく本件は安野産業に戻ってくると信じたいな」
横で篠井がほっと息をついた。これで、敬三さんの進退にも明るい材料がそろった。
都庁の横を歩き、新宿西口方面へ向かうため、地下道へ入る。
さて、さっきのこと、なんて聞こうかな。
俺は、言葉を選んで妙に話せないでいる。
篠井は『心を決めた』と言っていた。
それって俺とのことだよな。
続き、言ってくれないのか?
そりゃ、答えを急ぐ気は無かったんだけど……『決まった』なら聞いてもいいような。
そわそわしている俺の横で、篠井が大きな声で言う。
「あ!例のビストロ!いつ行きましょうか!?」
「あー、うん」
「気のない返事ですね!」
俺の返答が面白くないらしく、子犬のように食ってかかる篠井。
そんなにぷんぷんされても、困るんですけど。
ビストロより気になることがあるんだよ、今現在。