強引社長の不器用な溺愛
「なあ、今夜は俺の部屋に泊まって行くんだろ?」


社長が眼力鋭く私を射抜いている。
うう、それは……。


「大ばあちゃんの期待に応えて、玄孫作りしないと」


本気度の高い……というか、今日こそ逃がす気はないぞという社長の言葉にたじろぐ。


「えっと、今夜は……」


「日曜は俺んちに行って疲れたからって断ったよな。平日にお泊りは仕事に障るって、ここ数日も断ってきたよな。おい、絹、今日は金曜だ。もう言い訳は効かねーぞ」


ふふふ、と企んだ笑顔になる社長。

怖い。
ヤツはやる気十分だ。

一応用意してある逃げ口上が通用するか不明!


ええ、実はそうなんです。
やっと気持ちは通じたけれど、私はここ6日、社長のお誘いを断り続けております。

だって、いまだ本人には言えてないけど、私は処女なんだってば。

今まであれだけこなれた大人の女感を出しといて、ここで『実はバージンです』ってナニソレでしょ?

大人の女はベッドの上でも大人でないといけない。
その覚悟がまだ決まってないのよ!

一応、事前予習で、ラブシーン多めの洋画とか見たけどさ!
なんかイマイチイメージつかめない!本番でテンパらず振舞える自信ゼロ!

私は色々考えつつ、ひとまず運ばれてきた湯気をたてるブイヤベースを味わうことにする。
間が欲しい、間が。

目の前で、ブイヤベースに手をつけず、じとーっと私を見つめている社長がいるんですけどね。

ここはひとつ、上手に切り抜けにゃならんですよ。
ニコッと笑って見せる。
< 235 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop