強引社長の不器用な溺愛
照れたように笑ってから、社長は悪戯に言う。


「つまりさ、絹の正体を知ってるこっちには、優しくする準備があるってことなんだけど」


「準備って何ですか!!」


思わず突っ込んだ私に、返されると思わなかった社長が苦笑い。


「いや~、心構え的な?」


「曖昧すぎます!バレたから言いますけど、まだ私は覚悟が決まってませんので!今しばらくお待ちを!」


「そんなこと言うなよ~。俺、このままじゃ仕事中におまえを襲っちゃうかもしんねー」


「獣ですか、あなたは!」


わいわい騒ぎながら、私と社長の夜は更けていく。
パンを二回もお替わりして、ワインもたくさん飲んで、散々笑ってから私たちはお店を出た。



1月も終わりの夜空は澄んでいて、こんな街中でも星がいくつも見える。吐く息の白さと相まって、すごく綺麗だ。

公園近くの路地を歩きながら、私は横にいる社長の気配を噛みしめる。

こうしてずっと一緒に歩いていきたいな。
こんな風に想えることが恋ならば、それはなんて幸せなんだろう。
好きな人が、私を好き。同じ夜空を眺め、同じ空気を噛みしめる。胸がそれだけで、ほっと温かい。

ここまで恋愛をさぼってきたのは、八束東弥とこうなるためだったりして。
いやいや、それはご都合主義ってやつでしょ。

そんな風に自分を笑いたくなった時だ。
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