強引社長の不器用な溺愛
東弥さんがすうっと息を吸い込み、手を伸ばしてきた。
右手が私の左肩に触れる。大きな手のひらが、肩に温度を伝えてくる。

その瞬間、心音は一気に速度を増した。トコトコトコトコ。小太鼓みたいだよ、マイハート!

っていうか、東弥さんや。
これは引き寄せようとしてるの?それとも、愛撫ってやつのスタート?
ああ、わかんない!どうしたらいいか、わかんない!

いっそう、表情も身体も固くした私に、予想外の言葉が降ってくる。




「今日はやめとく?」


やめるの?呼んでおいて?ここまで緊張させておいて?

いやいや、やめてもらえたら、そりゃ助かるでござる。でも、なんだろう、この一抹の寂しさ。

頭の中が大混乱な私は、情けない顔を上げ、東弥さんを見つめる。
東弥さんは、正座を崩して胡坐をかいた。
短い髪をかき上げ、こちらも困った表情だ。


「無理やり連れてきてなんだけどさ。おまえの覚悟が決まらないなら、今日はいいよ。俺、こっちのソファで寝るから、おまえはベッド使ってくれ」


怒っているわけじゃない。苦笑いをしている彼は、ひたすらに優しいのだ。

そして、そんな優しさに触れた瞬間、私は別な意味で慌てだした。
東弥さんとエッチする覚悟は決まってない。だけど、彼が望んでくれてるのに、私が拒否って、ヒドイ状況じゃない?

というか、彼の性格上、ここは強引に事に及ばれてしまうんだろうと、ビビりながらも期待していた勝手な私を発見。
東弥さんがすっと引いた途端に、悲しくて胸がつぶれそうってどういうことよ。またしても『死因・自己嫌悪』で三途の川が見えてきた。
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