強引社長の不器用な溺愛



スマホの電波の向こうで篠井絹が言う。


『……ということで進めますので』


俺は冷えた冬の空を見上げて答える。


「あー、それじゃ頼む」


『今日は直帰ですか?』


「一度戻る。遅くなるから、閉めて帰っていいぞ」


篠井の了解を受けて通話を切った。

帰る風の返答だったけれど、あいつもたぶん残ってるな。
仕事片付けながら、それとなく。
そういう女だ。

俺はこれから落ち合う取引先の担当に電話をした。
今日はあちらの社長も交えて接待飲みだ。
今時流行らないとは思うけど、こういう小さい会社には、コミュニケーションも仕事のうち。

八束デザイン株式会社は俺が大学を出て立ち上げた会社だ。
俺の見込んだ連中と組んで、俺が仕切る代わりにやつらには全力で仕事をしてもらう。

ま、そんな夢みたいなことができたのは、俺の実家に貸せるほどの金があったことと、友人の重松敬三のおかげだと思う。
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