強引社長の不器用な溺愛
おとなしくトリダシの細麺をすすっていると、堂上が言う。


「なぁ、八束ぁ、俺、結婚しようと思うんだ」


むせた。
いきなりの告白にむせた。


「え?相手はリカちゃん?」


「気安くちゃん付けやめてくんない?」


堂上は大学時代から付き合っているひとつ下の彼女がいる。
さては、30を目前に長すぎた春を責められ、結婚をせっつかれたってところだろう。
優男を絵に描いたような堂上が結婚を決意したなんてよっぽどだ。


「よかったじゃん。リカちゃんもホッとしてるだろ、おまえがようやくもらう気になってくれて」


「おー、まあ、一番最初に報告してみた」


堂上がサラダを咀嚼してから言う。


「恥ずかしながら、結婚っていうものをようやく真面目に考えだしたよ。長く付き合ってる女に責任はあるよな。俺らもう30歳。この会社を一緒に始めた生駒(いこま)だって、もう母親なんだぜ」


「いつまでも大学生気分じゃいられない。着実に歳は取ってる」


答えつつ、懐かしい名前に少し感傷的になる。
生駒はこの会社の創業メンバーで、翌年転職した。その後会社の上司と縁付いて今や二児の母だ。

内緒の話だが、生駒のことが少し好きだった時期がある。
だから、会社に誘ったんだけど、結局気持ちを伝える前にいなくなってしまった。
うまくいかないもんだ。

< 39 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop