強引社長の不器用な溺愛
「でさ、俺はようやくそういうオトナな考え方ができるようになったわけなんだけど、篠井の件、覚えてる?」


シノイノケン。

今度はむせずに済んだぞ。
でも、なんて話題だ。今、その件すっげえ話したくない気分。


「年頃の篠井だってそのうち結婚するって話。総務兼秘書がいなくなったらまずいって話」


「俺がやるって言ったじゃん」


「八束の言葉じゃ現実に即してない。篠井が結婚や出産でこの会社を抜けるかもって、真面目に考えてないだろ」


「あー、でもあいつ彼氏いないんじゃないか?」


世慣れてそうに見えてただのクソ真面目・篠井絹が、彼氏がいるのに俺の挑発に乗ってキスなんかするはずがない。
あいつの性格上、現時点では特定の男はいないのだろう。


「え?そうなんだ。それなら好都合」


「何が?」


堂上はクリエイターだけあって、ちょいちょい話の流れが見えないことがある。
いや、クリエイター云々じゃないな。こいつの性格だな。

俺が胡散臭そうに見つめていると、口を開きかけた堂上が盛大にスプーンをグリーンカレーに落下させた。
話が中断し、俺が見守る中、紙ナプキンでゴシゴシスプーンを綺麗にするアホがひとり。

何この間。
篠井の名前が急に出てきた時点でだいぶ気になるんだが。
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