強引社長の不器用な溺愛
「社長?」


オフィスのドアを開けると、なんというタイミングか篠井と鉢合わせした。
うお、俺の顔色、絶対に変わるなよ。


「篠井、今夜車出せるか?」


いきなり仕事の話にシフトしてみる。
篠井は表情も変えずに頷いた。


「ええ、大丈夫ですよ。今夜のパーティーでしょう?」


「そうだ。会場が八王子駅からバスで20分なんだよ。送りだけでも出してくれると助かる」


取引先の会長が経営するフレンチでのパーティーというのがコンセプトなのだが、要はお付き合いでの遠征接待だ。

うちには俺所有のベルファイアが一台。
社用車として近くの月極に置いてある。立地的に郊外な客先には使うことにしている。

篠井は俺を見上げ、わずかに考えるように唇をとがらせた。
薄い色味のナチュラルなリップが、妙に色っぽい。

瞬時に俺はちょうど一週間前になるあの夜を思い出した。

いかんいかん。

部下を変な目で見るな。


「2、3時間なら、時間潰しますよ。帰りもお送りしましょうか?」
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