強引社長の不器用な溺愛
「俺、ライブ行った。渋谷のライブハウスで」


「え、マジですか?私、ドームは行ったことありますけどライブハウスはないな」


「すっげー出たての頃だよ。当時付き合ってた彼女がジャパニーズロック大好きでさ。連れてかれた」


「そうですか」


あれ、篠井の声が冷めた。

“当時の彼女”ってのがマズかった?
嫌な気分になりました?

まてまて、篠井が気分悪くなる理由ねーだろ。
俺、ちょっと天狗になってません?
一回、キスしたくらいで彼氏気取りかっつうの!


「私、結構好きだったんです」


「え!?」


俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

篠井が横目で不審そうにこっちを見る。


「このバンドの話……でいいんですよね」


「いや、うん。いい。……よく聞こえなかったんだよ。エンジン音でさ」


必死に言い訳する俺。
ださい。
好きがどこにかかってんのか一瞬混乱した。

篠井は少し頬を緩めて思い出すように言う。


「当時の土曜ドラマの主題歌だったんですよね。ドラマがサスペンス系で、すっごく世界観とマッチしてて、いっきに好きになっちゃったんですよ。懐かしいなぁ」


「あー、そういえば。一番売れたのってその主題歌の曲だよな」


「違いますよ。その後のCMソングの方が売れてます」


意外にもだいぶ詳しい篠井。ドームも行ってるって言うし。これは、結構本気のファンだったな。
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