強引社長の不器用な溺愛
「残念ながら、私が大学を出た年に解散しちゃいましたけど。今でもたまにCD引っぱり出したり、動画サイトなんかで聴きますよ」


「へえ、篠井みたいな鉄の女にもそーいう普通の部分があるのだ」


「ええ、まあ。私なんか超普通ですよ。こんなやわやわの鉄は存在しないです」


篠井はうそぶいて微笑む。
こいつって、普段は余裕たっぷりのこなれた女なんだよな。
悪く言えば見栄っ張り。
本当はただの真面目な努力家。

ちょっと変わった俺のデキル秘書も、ドラマ見て主題歌やってるバンドに惚れちゃう女だったんだ。
意外で面白い。


「あ、ちょっとラジオ消すぞ」


曲が終わったので、俺はラジオを消し、スマホを取り出し動画サイトにつなぐ。
最大音量で流れ出したのはさっきのバンドのまったく違う曲


「俺はこの曲が一番好き」


篠井が驚いた顔をするのが見えた。ワンコーラスを聴いてから、篠井が答える。


「私もこの曲が一番好きです。ミニアルバムの収録曲で、目立つ曲じゃないんですよね。でもライブでは必ずやるんです」


「たぶん初期の曲なんだろうな。俺が行ったライブハウスでもやってたよ。正直、感動して泣けた」


俺の言葉に篠井が笑う。これはいつもの余裕の笑みじゃない。素の笑顔だ。
ふにゃっとちょっと気の抜けた顔。

あ、こいつ喜んでやがる。
自分の大好きな曲を、他人が同じく価値を見出していたってことに。
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