強引社長の不器用な溺愛
「社長が泣くとか、あり得ないですね」


「俺、泣き虫だもん。感動しいだし」


「ばっかじゃないですか?」


悪態をつきながら、篠井が笑っているのが心地いい。

なんだよ、おまえ。もっとそういう顔しろよ。
いつだって、“ワタシちゃんとしてますから”みたいな顔してないでさ。

ふと、気付く。

俺があの時、図に乗ってキスしてしまったのは、こいつの余裕を崩したかったからなのかもしれない。
綺麗に取り繕った仮面にヒビを入れてやりたくなったのかもしれない。

どんな理由にしたって、あれはまずかった。
ほら、今だって篠井はちっとも気にしている素振りを見せない。ウジウジ考えているのは、俺だけだ。

もうあの記憶は頭から追い出せ。

目的地には1時間少々で到着。
郊外のフレンチの広い駐車場に車が停車すると、俺は後ろにかけてあった上着を羽織る。


「悪かったな。帰り、気をつけろよ」


「ええ、本当に迎えは大丈夫ですか?」


「子どもじゃねーぞ」


そうでしたね、と薄く笑う篠井は、俺のことを出来の悪い兄とでも思っているのかな。

本当に出来が悪くてスマンと思ってるよ。
妹におんぶにだっこの兄貴分でさ。

でも、おまえにかける迷惑はこれでも選んでるんだぞ。
そんなこと、威張るなっておまえは言うだろうけど。
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