強引社長の不器用な溺愛
助手席から降りると、座席にスマホが落ちる。

足元に落下する前にと手を伸ばすと、同じ事を考えたであろう篠井と手がぶつかった。

俺の指先に当たる篠井の手の甲。
薄暗い社内に眩しいくらいに白く浮かび上がった篠井絹の手。

すぐさま、それは勢いよくひっこめられた。

うお、スゲー過剰反応!
って、俺もスピーディーに手ぇひっこめちゃったけど!

たかが手と手が触れ合っただけで、何を慌ててるんだ、俺たちは。
何を意識し合ってるんだ。

はっと顔を見ると、篠井は気まずいことこの上なしというように頬を赤くし、目をそらしていた。
触れてしまった右手を胸の前に左手で覆っている。

おいおいおい、何その態度。

えーと……。

えっと、すみませんでした。


「手の甲ひっかいちゃったな。すまん」


俺は適当に謝る。
言いたいことはそれじゃない。
でも、他に言うべき言葉が思いつかない。

篠井が口の中で小さく、イイエと答えた。


「ありがとな。それじゃ」


俺は助手席のドアを閉めると、目的地のエントランスに向かって歩き出す。

篠井はまだこちらを見ているだろうか。
どうかさっさと車を発進させてほしい。
< 49 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop