強引社長の不器用な溺愛
『大丈夫です!げ・元気!イエイ!』


にかっと笑って見せる。
もちろん、答える前に近くに社長や堂上さんがいないか確認してからだけど。
ふたりとも外出中だ。
よかった、私の不調の原因である社長には聞かれたくない話題だもん。


『そんな笑い方する絹さん、絶対裏がある』


沙都子さんはふふっと笑った。
ああ!そうですよね、普段の秘書スマイルはこんなんじゃないッスもんね!
なに、あからさまに強がりスマイルしてんだ、私!


『何かお手伝いできることは言ってね』


沙都子さんはそれ以上追及するでもなくデスクに戻ってしまう。
大人だ。気になったことは口にするけれど、ワケアリならさっと引く。

私は恐縮しつつも、仕事を再開した。

はあ、バレてたのか、私が変って。
たぶん気づいたのは勘の鋭い沙都子さんくらいだろう。社長には絶対気づかれたくない。

だって、私の脳をかれこれ一週間フリーズさせてるのは、社長との金曜の夜のキスだからだ。

なんで。
なんで。

なんであんなことしちゃったんだよ、私!

売り言葉に買い言葉でした、はい。
思いっきり、挑発に乗りました、はい。
あげく、キスが気持ちよすぎて腰が抜けてました、はい!

うぉぉぉぉ、馬鹿なのか。
相手は八束東弥だぞ。

うちのボスだぞ。
仕事の相棒で、私の日々をだいぶ煩わせて、お互いに文句を言い合うあたりなんか兄妹くらい近い関係だぞ。
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