強引社長の不器用な溺愛
昨夜の社長の顔がよみがえる。
郊外のレストランまで送って、別れ際。

それまで、音楽の話や仕事の話なんかで完全にいつもの空気だった私たちを、何かが壊した。

かすかに触れ合った手を、お互いいっぺんにひっこめたのは、本能的にわかっていたから。
これ以上接近しちゃいけないって。

でも、少しだけ傷ついた私も、あの時存在したのだ。
社長に浮かんだ表情に罪悪感が見えたから。

ああ、この人、私に軽々しく手を出したことを、めちゃくちゃ後悔してんだ。
それが感じられた。

そういえば、キスの後だってわざとらしく逃げたのはあっちだし、私が何も気にしていない態度だったことを一番ほっとしていたのは、八束社長なのかもしれない。

そう思ったら、無性に腹が立って、帰り道の高速は随分スピードが出てしまったっけ。

あはは。
ばっかじゃん、社長。

どうせ、私の従兄の敬三さんに申し訳ないとか、嫁入り前なのにとか、こいつ本気にならねーだろーなとか色々頭ん中で考えたんでしょ。アナタが意外と頭使ってんのも知ってんですよ。
でもね、私の方が100倍くらい使ってんの。
で、賢い私の選択は『なかったことに』っつうダイエットサプリも真っ青な結論よ。

だからー、その無駄に傷つける表情とか勘弁だわー。

私は触れ合った手くらいじゃ動揺しない。
ゆうべだって、冷静な顔をしていた。

……はずなんだけど、正直その瞬間頭が沸騰して、わけわかんなくなったんだよね。
変な顔とかしてないかな。変な態度じゃなかったかな。

駄目、全然思い出せん!
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